コーヒーを飲んで気合を入れなおし
私はパソコンの画面に集中した。



すると、私の席と背中合わせに座っている伊藤さんがイスにまたがったまま滑るように私の横まで来た。


「橘ちゃん」


「何ですか?」


彼は小さな声で

「その顔は、恋してる顔だね」と言った。


ギクっ

キーボードを打つ手が一瞬止まる。


彼の観察力にはいつも驚かされる。

人の表情を読み取って、相手が今何を考えているのか推測するのは彼の得意技だ。


私も小さな声で

「違いますよ」と答えた。


「大丈夫。みんなには黙っておくよ。
温かく見守ってあげるから」


そう言うと、彼は床を蹴りながら自分の机まで戻った。