120秒の恋

すると坂井さんが女性に声をかけた。

「良かったら、一緒に持ちますよ」

「ああ、助かります」

二人は両側から乳母車をつかむと、一段一段ゆっくりとのぼった。

「どうも有難うございます。
声かけてもらったの初めてです」

女性は嬉しそうに礼を言った。



私は、改めて彼のことを尊敬した。

私がひとりだったら、手伝ってはいなかったと思う。

他の人と同じように、見て見ぬ振りをしていたに違いない。


何の躊躇もなく、ごく自然に声をかけた彼がすごいなと思った。


私は嬉しくなって、歩きながら彼の腕にしがみついた。



「どした?」


「ううん。何でもないよ」

ハニカミながら甘えるように答えた。