運転席に座った彼に、

「あ、あの、私、乗ってもいんですか?」と遠慮勝ちに聞いた。

「ハハ。乗らなきゃ、どこにも行けないよ」

「エヘ。・・・ですよね」

「どこに行きたい?」

「・・・私、坂井さんの一番好きな場所に行きたいです」

「へぇ?
僕の好きな場所?」

「はい」

「初めてのデートなんだから君の行きたいところでいんだよ」

「初めてだから、坂井さんの好きな場所に行きたいんです」

「僕の好きな場所かぁ。
・・・じゃ、あそこに行こうかな」

彼はエンジンをかけると、ゆっくりアクセルを踏んだ。


彼の運転はとても丁寧だった。
急ハンドルや急ブレーキも無く、アスファルトの上を滑るように車は走った。

話をしながら、時々、彼のことを見た。

運転に集中している横顔がなんとも凛々しかった。