猶予期間は多分十二時間を切っている。
今夜── 葬式の帰りだって言っていた。
通夜は夜からで、夕方の六時を過ぎないと始まらない。つまり……ありすはそのあとに── 死ぬ。

(死神がありすに会えなきゃ……死なねぇのかな?)

ならば── と啓一はありすを探そうと思った。
肉体のない魂というのは物理的な制限が無いものらしい。実際にありすを探そうと隣家の二階を目指せば扉は啓一を遮らなかった。普通に階段を上って、ありすの部屋を目指す。部屋に行くのはもう滅多になかったけど……ありすの部屋の位置は変わっていない。

(……写真)

壁には喪服代わりの制服が掛けられていて、机の上にはぐしゃぐしゃの写真が一枚。
小さな頃の俺とありすが並んでいる。
昔、山に出かけたときに迷子になったあとの写真だ。迷子になって手を繋いでなんとか川辺に出てきた。そのあとの……写真で、俺の鼻が赤くすりむけているのは山の中で転んだからだ。
それでも泣かないってきめたのはありすが手を握っていたからだ。

「……なんだよ、ぐしゃぐしゃじゃん」

手で伸ばしてみればしっとりと濡れている。濡れている理由は聞かないでいられればいいな……なんて思ったりする。
多分泣いた── なんて。
俺のために泣いた── なんて。
知らないで済むならそれでいい。ありすの泣き顔は本当にぶすだから泣くなって思う。

(つーか……いねぇし)

ふわり、と窓から出てみると、空の青さに目が痛くなる。
お日様のしたでも動けることに感謝しながら啓一はありすを探した。
学校、公園、ショッピングモール……思いつく限りを探してみるが見つからない。ありすが居る場所がみつからない。

(俺の葬式なんていらねぇし)

葬式に来てお前が死ぬなら葬式なんてなくていい。
成仏とかなんていうのが関係ないのは死神にあって分かってる。
あいつがきっとなんとかしてくれるだろ、なんて思ってる。

── だから

来るな。
ぶすくれた泣き顔さらすなんてしにくるな。
俺のために── 死ぬな。