まず感じたのは、柔らかな風。
そして朝、ベットの上で目覚めるように、自然に目が開いた。
わたし、どうしたんだっけとぼんやりした頭で考える。
確か、ビルの屋上から飛びおりて―――。
それで……。
その先の記憶はないが、自分は死んだはずだ。
あの高さから落ちて無事でいられるはずはない。
そんなことを思いながら上半身を起こす。
身体にこれといった外傷はなく、痛みもない。
自分の状態を確認してから、辺りを見回した。
樹齢60年は軽く超えるであろう木々が立ち並んでいる。まるで森か林のようだ。
「花畑じゃないの?」
ちょっぴり湿っぽい空気さえ漂わせるこの場所に、眉を寄せる。
天国は花畑と川と決まっているのに。
それとも天命を全うしなかったから、天国にはいけなかったのだろうか。
だとしたら、ここはどこだ…。
戸惑いながら立ち上がる。そんなわたしの背後から「目覚めたか。滝島春菜」という声がかかった。
フルネームを呼ばれたこともそうだが、何より驚いたのは、振り返った先に先ほどまでいなかったはずの人物が当然のようにそこにいたことだ。