都心から少しはなれた場所に大学病院のように広く古い総合病院が建っていた。古いといっても古臭い、という印象はなくモダンで洒落た雰囲気の建物であった。庭は広く緑が豊かで木々や花壇が整然と手入れをされおり、これまた白い洒落たベンチがバランスよく配置されていた。建物に入ってすぐ目の前にある総合受付のロビーは外との壁は全面ガラス張りになっており、太陽の光がキラキラと降り注ぎロビー全体を明るく照らしていた。清潔感のある内装の白が暖かい太陽の光を反射してやわらかい雰囲気に包まれていた。

 肩より少し伸ばした艶のある黒髪に黒目がちの大きな瞳のその少女がその病院を初めて訪れた時、真っ白なワンピースを着ていた。その姿は彼女の雰囲気にも病院の雰囲気にもとても合っていた。まるで、最初からその病院を訪れる為に用意したようだった。
 けれど、彼女がその病院を訪れたのは偶然なのだ。
 
 彼女、三島葉子が病院を訪れたのは健康体であり特に最近具合が悪いという訳でもなく、病気ではないが健康診断を受けに来たという訳でもない。かと言って彼女の親戚や友人、知人が入院していて見舞いに、という訳でもない。葉子とこの病院をつなぐ関連性はまったくない。
 それでも葉子が病院を訪れたのは、葉子の好きな画家の絵画展が病院の近くで開催されており、葉子は絵画展に行く為に初めてこの土地を訪れた。そして、その帰りにまだ日は高かったので散歩がてら遠回りをして帰路についていた。途中の穏やかな並木道を歩いている時にあの病院を偶然見つけたのだ。病院を見つけたというよりヨーロッパ風で重厚なとても広い開かれた門がまず目に入り、そこから中を覗いてみれば緑ゆたかな広い庭があったので、葉子はその素敵な庭で一休みしようと考えたのである。葉子はその時そこが病院である事に気が付かなかった。例え気が付いていたとしてもその白いベンチに座り、少しの間休んでいくだろう。葉子は淀みない足取りで敷地内に入り、外れの方にあるベンチの左端に座った。そしてゆっくりと敷地内を見渡し、やっと奥の方に見えていた建物がどうやら病院であるらしいという事に気が付いたのだ。
 このまま休んでいて良いものかと考えながら、ふと視線を葉子の座っている場所とは逆側の端に向けるといつの間にか一人の少年が座っていた。これが少年、坂口要との偶然の出会いである。