鈴祢と呼ばれる女の子は、消えてしまった。

僕の心には一筋の光が差し込んでいた。

甘い香りを漂わせて桜が散っていく。

僕は時間が経つのも忘れて、彼女のいた場所を見つめた。

僕の乾いた心に一瞬でも水をくれた人。

僕は一目で恋に落ちた。

十五年間初めての感情だった。

チリリンッ

二階から鈴の音がする。

「そこの君ーっ!」

二階の窓から彼女が顔を出している。

あそこは美術室だ。

「受け取ってー!」

彼女が僕に紙飛行機を飛ばした。

しかし、彼女の紙飛行機はヘタクソで、グニャグニャ曲がってどこに落ちるかわからない。

僕は紙飛行機を追い掛けた。

気紛れな紙飛行機は風にあおられて、僕の頭に落ちた。

コツン

僕の頭に軽い衝撃が伝わる。

クスクスと上から笑い声が聞こえる。

「開けてみて?」と彼女がジェスチャーをした。

よく見ると紙飛行機には文字が書いてある。

『いつもそこで本読んでるね。どんな本を読んでるの?おもしろい?』

僕はキョトンとした。

僕のいた場所には一冊の本がある。

僕はここでよく読書をする。

彼女はそれを知っていたのだろうか?

「私!白山鈴祢って言うの!よろしくね!」

それが鈴祢と僕の出会いだった。