【完】甘い恋よりもそばにいて








まじまじとあたしを見つめる彼と
視線を重ねることは


なかなか勇気のいることで…

だから



反射的に
顔を背けてしまう。




そんなことはお構いなしに


くいっと顎を持ち上げられ
簡単に啓の方を向かされる。


抵抗……



できない…。



あたしの瞳を捉えて離さない
おそろしいほど澄んだ



啓の瞳。



“動くな”

そう暗示を
かけられているかのように

もう身体が言うことを
聞かなかった。



あらがえなかった。












「莉華…お前の10秒
俺にちょーだい……?」


と囁いた啓。



「え……?」
とつぶやく。


啓の言葉の意味が
理解できないからだ。




「だまって…
ただ黙ってればいいから」


甘く甘く
啓の言葉は鼓膜を揺さぶった。








「莉華…」


啓はあたしの名前を呼んで
なつかしい笑みを浮かべた。



そして一瞬、



あの頃へ



引き戻される感覚に襲われた。



ただ純粋にひたむきに


呼吸をするように自然に
ずっと一緒にいるのだと



信じていたあの頃に。



あたしたちはもう二度と、
戻れないあの日々に。