「……」
困惑気味のあたしが
言葉を返せないでいると
目の前の彼は
スッと立ち上がった。
あたかも数分前の出来事など
気にも止めていないような…感じで。
あたしなんだか空気みたいに…
存在してないみたいだった。
ちょっと嫌なヤツ…
そう思ってしまった。
まあ、いきなり押し倒して
彼の機嫌を損ねたのは
間違いなく
あたしだが。
そして彼は隣の彼女と話し始めた。
「悪いけど、今日はもう帰って…」
低音の声の調子は変わってない、
穏やかな響きだ。
でも
その声とは対照的に
彼が発したのは
別れの言葉。

