冗談かと思ったら、どうやら十夜は本気なようだった。
「…ねえ、布団一式しかないから、十夜の寝る場所なんてないよ」
「いいよ別に。その辺で横になる」
「灯油切れてるから冷えちゃうよ」
「明日、灯油買いに行ってくるから」
意外に頑固なところがある十夜には、それ以降何を言っても無駄だった。帰って欲しいのに、どこかで十夜がいてくれることに安心している自分。
なんか嫌だ。
ようやく、心臓の鼓動も落ち着きを取り戻してきたみたいだ。
安心感に包まれた空間で、瞼が重くなる。
「十夜…、わたしちょっと寝る」
「俺、いていいの?」
「もう好きにしなよ。風邪うつっても知らないから」
憎まれ口をたたくことしか出来なかったのに、十夜は嬉しそうに笑った。
まったく理解出来ない。
静かな夜が、ようやく訪れたのに内心酷くホッとした。

