わたしとは違う、大きな手がゆっくりと背中をさすってくれた。
呼吸を繰り返すうちに、押し寄せていた咳の波は徐々に引いていく。完全に咳が出なくなったのを見計らって十夜がわたしに温かいお茶を差し出した。
「ありがと、十夜。大分楽になったよ」
そういって笑った。
けれど、やはり熱があるせいか上手く笑えていなかったのかもしれない。わたしを見つめる十夜の表情はどこか複雑そうで、いつもと様子がおかしかった。
それに首を傾げながらも言葉を続ける。
「さすが女慣れしてるだけあるよね、十夜は。扱い方が上手すぎだよ」
笑いながら、思ったことをそのまま口に出してしまった。
それは、いつものやりとりに含まれるような内容で、別におかしなことを言ったつもりはなかった。

