「これだけで申し訳ありませんが1時間でいいんです、貸してください!!」
「…早めに終わらせてくださいね」
男はお金を受け取るとコートから出て行った。
「よし、始めましょう」
私が笑顔で戻ると奏女ちゃんは驚きと怒りで突然怒鳴り出した。
「あんたこのコート1時間借りるのに10万ってばかじゃないの!?なんでそんなことしたのよ!!」
「別に私にとってそれはたいした価値なんてないからだよ。そんなお金より、奏女ちゃんと試合をする方が何倍も価値がある。だから10万なんて安いぐらいなの。ほら、早くラケット貸して」
私は奏女ちゃんからラケットを渡されるとコートに入った。
「あんた…なんで奏女にそこまでするのよ。奏女もうすぐ死ぬんだから恩売ろうとしても無駄なんだからね!?」
「ばかじゃないの?恩を売るつもりだとしたらリスクが高すぎる。私は残念ながらそんな偽善者じゃないって言わなかった?」
「じゃあなんで…!!」
「別に意味なんてないわ。奏女ちゃんがうらやましかったし…気が向いただけよ」
「なによそれ…でもその服と靴でテニスなんかできるの?」
「なめないで。中学ではテニス部だったんだから」
「中学ってあんたねー…いくら練習してないからって奏女、結構強いんだからね」
「まあいいから早くうってよ」
私がそう言って構えると、奏女ちゃんはサーブをうった。
パンッという綺麗な音がしてボールが飛んでくる。
久しぶりの感覚とヒールであまり動きはよくないけど…だからこそ本気でやろう。
私は手加減なしにその玉を打ち返した。

