妃和は俺に気づいたのか笑顔で近寄ってきた。
俺、なんて言おう……
まずは咲本のこと聞かなきゃな。
「ひさ…」
「久しぶりです赤松さん」
妃和は一度も俺を見ることなく横を通りすぎ、後ろにいた赤松さんに頭を下げた。
え…?
なんで……まあもう契約は終わったんだし関係ないんだから当たり前かもしれない。
でも…少しぐらい見てもいいじゃねえかよ。
妃和は挨拶が終わると咲本とどこかに歩いていく。
「ちょっと待てよ!!」
俺は慌てて妃和の腕を掴んだ。
「あ…風間さんお久しぶりです。その節はお世話になりました」
妃和は綺麗に作った笑顔を他人に向けるように俺に向けた。
なんだよこれ気持ちわりぃ。
風間さん?
前まではそんな笑顔俺には向けなかっただろ?
…でもまず俺が聞きたいことは
咲本についてだ。
「…お久しぶりです。今日は何で咲本さんと一緒にいるんですか?」
「私たち…」
「元婚約者の風間さんにだけは言っておきますよ。僕たち婚約したんですよ」
そう言って咲本は得意そうに妃和の肩に腕を回し引き寄せた。
「は?」
意味わかんねえよ……
何で妃和がこいつと?
「あっ他の人には秘密ですよ?
風間さんと婚約破棄してすぐに僕と婚約というのはあまりよく思われないでしょうから」
「本当なのかよ妃和?」
「ええ…本当です」
「そん、な…何で……」
「理由なんてありませんよ。
風間さんには私が
必要ないんでしょう?
なら私が何をしようとあなたには関係ありませんよね」
俺は妃和の言葉に胸が締め付けられた。
そうだ…俺が手放したんだ。
俺にこいつに何かを言う権利はもうないんだ……

