気まぐれ社長の犬


こいつ誰だっけ?
なんか見たことあるような……



「咲本拓真(サキモトタクマ)です。久しぶりなので覚えていませんか?」



男はそう言って爽やかに笑う。



「ああ咲本さん。覚えてますよ。お久しぶりです」



私はそう言って笑顔を作った。


本当は覚えてるわけないけど。

こんな人話したことあったっけ?



「よかったー。妃和さんの周りにはいつも人が集まっていたから、覚えていらっしゃらないかと。あの…どうして風間グループ次期社長とご一緒に?」


「私たち、婚約したんです。今は秘書として働いています」


「へー…そうなんですか。確かにお似合いだ」



そう言った咲本さんの声はさっきよりも少し低くて、笑顔も爽やかじゃなかった。



「咲本さん…?」


「お幸せに。あっそうだ何かあったら連絡ください。いつでも待ってますから」



咲本さんは私に名刺を渡すとどこかに歩いて行った。



「気持ち悪い……」


「爽やかぶってたけどあれそうとう歪んでるぞ。気を付けろよ」


「はい……」



ただあの人、本当に思い出せない。

どこで会ったんだろ?
今度調べてみようかな。



そう思っているとパーティーというのは実に面倒くさいもので、またどこかの企業の社長が話しかけてきた。

私は響城さんが話しているのをなんとなく聞いていたけど、その人の表情を見ていると微かに違和感を感じた。



「風間さん、いつ社長就任なさるんですか?」


「1ヶ月後ぐらいですね。その時は梅原さんもお呼びしますので」


「楽しみにしてます。でもお若いのにすごいですね。うちの息子にも風間さんを見習っていただきたいものですよ」


「いえいえそんな。梅原さんの息子さんもご立派じゃないですか」


「そんなことありませんよ。そういえば風間さん最近どこかの組に狙われてるらしいと聞いたもので、気をつけてくださいね。それじゃあまた」



梅原さんは軽く会釈をして私たちから離れ、違う人に話し掛けに行った。