気まぐれ社長の犬


「電話、代わっていただけますか?」



私が麗美さんのお父様に手を伸ばすと、そこにいる全員が私を驚きの目で見る。



「ちょっ、お前何考えて!」


「私が身代金の受け渡しに行くのなら、私が電話をした方がいいんじゃないかと思って。何か問題でも?ねえ、刑事さん?」


「も、問題はないが…」



私の行動が信じられない、というように刑事さんたちは私を見つめる。



「ちょっと待て。俺はお前に行かせるのは反対だ。危険すぎる」



厳しい顔でそう言った響城さんを、私は下から冷めた笑顔で見る。



「じゃあ、ここに他に女性がいますか?いないのならしょうがないでしょう。それに私はそこら辺の女性よりは強いと、あなたが1番知っているはずですが?」


「だけど…っ」


「助けたいのでしょう?麗美さんを」



何も言い返せなくなった響城さんを尻目に、私は電話の受話器を受け取る。



「もしもし」


「あんた誰だ?」


「私が身代金を持っていきます。詳しいことを教えていただけますか?」


「へえ…あんたが。とりあえず、東京駅に来い。それからまた連絡する。あんたんとこの門に携帯を置いといた。それを持って行け。怪しい真似をしたらすぐ撃ち殺すからな」


「…わかりました」



そう言った時にはもう電話は切れていた。



「ふう…それでは、警察の皆さん、よろしくお願いしますね」


「…でも、やはり一般人を安易に巻き込む訳には…こちらから女性警察官を向かわせますよ」


「そうだよ!危なすぎる…今回、俺はお前をすぐ近くで守れないんだぞ?」



必死に私にそう訴える響城さんに私は冷たい視線を向ける。


さっきまであんなに麗美さんの心配してたくせに、何なのよ…

嫉妬だなんてわかってる。

心配してくれてることだってわかってる。

だけど…苛々するんだ、情けないぐらい。



「その警察官は…銃弾を避けられますか?」


「は?」



訳が分からない、というような視線を私に向ける刑事さんたち。

そりゃそうだ。

そんな人間、普通いない。

それが当たり前なのだから。