気まぐれ社長の犬


社長室の電話が鳴ったのはそれから数日後のことだった。



「お久しぶりですお父様。どうしました?…え…誘拐?そんな、麗美がですか?はい…すぐに行きます」



電話を切った響城さんはすぐに立ち上がり鞄を持つ。



「麗美が誰かに誘拐された!とりあえずあいつの家に向かうぞ」



焦った様子で響城さんは部屋を出て行く。

突然の事に頭が付いていかなかった私も部屋を出てエレベーターを待つ響城さんの隣に並んだ。


一條がついていながら麗美さんが誘拐なんて、一体どうしたんだろう。


エレベーターが開いて私たちはビルの外に出た。

外に停めてあった車に乗り込み麗美さんの家を目指す。



「あの、一條という男のこともおっしゃってましたか?」


「一條?誰だそれ?俺は何も聞いてないけど」


「そう、ですか…わかりました」



あれだけの男がいながら連れ去られるなんて、あいつ殺されたかな?



「着きました」



私たちは車を降りる。

敷地の中は花でいっぱいで、噴水まであり家も白を基調とした綺麗なお家だった。


私とは住む世界が違う、て感じかしら?

自嘲気味にそう思いながらも家に入り通された部屋に行くと麗美さんの両親らしき人たちが不安そうな顔で座っていて、その周りには警察官たちが立っている。



「ああ、響城君よく来てくれた!麗美が、麗美が誘拐されてしまったんだ!」


「犯人からの電話は?」


「いや、まだだ…」



警察と一緒に電話を見つめる両親の顔は暗く、響城さんも同じように電話を見つめる。