「ぐはっくっ…同情か?」
「私がそんなに優しく見えたなら、あんたの目は節穴以下ね。今すぐ殺すわよ?」
私は振り返って冷たく男を見下ろした。
別に…同情なんかじゃない。
誰かを可哀想だなんて思える程、私は幸せな人生を歩んではいない。
ただ、似てただけだ。
その従順さが。
「あんたわりと強そうだし?私と同じように戦えるのあんたぐらいだと思うからさ。たまには相手してあげるわ。だから…這い上がって主人に縋り続けなさいよ」
男は驚いた顔で私を見つめる。
だけどすぐにいつもの顔に戻って薄く笑を浮かべた。
「後悔させてやるからな…」
「できるものならやってみな。主の犬同士、野蛮な殺し合いもたまにはいいんじゃない。まあ…最後に立っているのは私だけどね」
私は扉に向かって歩き出す。
そうだ、やっと思い出した。
ずっと思い出せなかったあいつの名前。
人の顔と名前はあんまり忘れないはずなのに忘れてた名前。
こいつはもう、本当に自分の存在を徹底してるんだなと笑いがこみ上げそうにさえなる。
「またね、一條くん」
私はそのまま軽く手を振り屋上をでた。

