気まぐれ社長の犬


私は男の腕を掴み引っ張って男をビルの下に落とした。

私はその反動で前に倒れかけるも、体勢を立て直す。


落ちた…そう思ったのは一瞬で、男はビルの壁になんとかしがみついていた。



「あら、頑張るのね」


「当たり前だ…こんな所で俺は死ねない。麗美様の願いを叶えるまで、死ねない…」




そう言った男の目は、私と同じだった。
いや、私よりも辛く悲しそうでもある。

ああ…この男は叶わない恋をし続け、相手の幸せだけを願ってその身を捧げるのだと感じた時、何故か少し胸が痛かった。



「そう…じゃあそこから這い上がって来てよ。そしていつか私を殺してみせて?でないとあなたの主人の幸せはないわよ?」



私は笑顔を見せると男の手を踏みつけてから背を向けた。