復帰してから1ヶ月も経たない内にまたもや事件は起こった。

道場に行く途中、いつも僕らが買い出しなどをする店の前で多人数同士、見ても空手の技だと分かるような戦い方で小さな戦をしていた。
全員で50人以上いた。

激しく戦っている団体の傍ら(かたわら)では二人の買い物帰りのオバハンが自転車を倒し、人魚に化けた妖怪のように両足を横にそろえて座り込んでいた。
倒れた自転車の前カゴからは立派な大根や袋詰めにされた人参など食欲をそそるように調理される前の姿でアスファルトに放り出されていた。
一方、少し離れた所には味の決め手となるであろうペットボトルの醤油が転がっていた。
僕は喧嘩してるドングリに目もくれず、座り込んでいる妖怪に近付いて自転車を起こし、放り出された食材を拾い集めて優しくカゴに戻してあげた。
妖怪がこっちを見てる。
視線を振り払い、心の中で「話しかけるな…」と、念じ続けた。

散らばっていた食材を全てカゴに戻し、ドングリの背比べが行われている所の地面の醤油を取ろうとした時、前方から蹴りが飛んでくるのが分かった。