かなり必死だった。
崖の下を見ると、銀色に輝く二つのおにぎりが助けを求めてる。
僕は餌が目の前にあるのに鎖の長さが足りない犬のような気分になり、リュックを木刀の傍に放り投げて何も考えず崖へダイブした。
高さは2メートルぐらいしかなかったが、木や岩が行く手を阻んだ。
なす術もなく、木や岩にボコボコぶつかりながら落ちていった。

なんとか擦り傷と打撲傷だけですんだ。
しかし、僕の目は涙で潤んで(うるんで)いた。
何故なら着地した時に《グニュ》とした何かを踏んでしまったからだ。
勇気を振り絞り、足を上げて“グニュっとした何か”を確かめた。
やっぱり銀色のアレだった。
しかも中身はおでんの残りの大根。
僕は悔しくて無事だったもう一つを手にとるとホイルをはがし、勢いよくかぶりついた。
2分もたたない間に完食した。

それから少し座って休憩していると、大事な事に気が付いた。
『どうやって帰ろう…。』
独り言を言いながら崖を見つめていた。