この家はこの町で一番大きくて立派。
母の父親、私の祖父にあたる人がこの町の元地主だったらしい。

代々受け継がれてきた「橘」という名。


母親はこの名前に縛られるのがたまらなく嫌だったと思う。
そしてこの家も。





昔はお手伝いさんがたくさん居たらしいが、今はこの広い家に私一人。

両親は年に数回しか帰って来ない。



たぶん、私は寂しいんだと思う。
でも昔から自分の感情をひた隠しして、我慢して、我慢して、そうやって耐えてきた。



私は橘雪穂。
名ばかりの跡取り。

もう時代は巡りに巡って、栄華をおさめた「橘」もただの「橘」。

すべて変わってしまった。