絵の具のにおいがする。
どうやら今日の彼は「画家さん」のようだ。



私が入ってきたことに気付いていないのか、彼はまだ筆を動かしている。


「創。」
私が声をかけると振り返って、

「ユキか。」
と小さい声で呟いた。




筆を置いて、大きく伸びをすると、「オカエリ。」と柔らかい笑顔を見せた。

私は彼のこの、たまに見せる笑顔が大好き。
彼が優しい人だってわからさせてくれるから。







「今日は写真撮らないよ。絵のオファーがきてさ、玄関に飾るんだと。」



彼の名前は一ノ瀬創(イチノセソウ)。


二十歳の大学生。
「自称」芸術家。