5年前の夏。
眠ったままの俺の横に、吸いかけのMarlboroを一箱と黄色い薔薇を一輪置いて姿をくらませた。
このときはまだ神代 歌南だった。
憎い女―――
よくものうのうと俺の前に姿を現せたものだ。
そう言ってやろうと思ったけど言葉は出てこなかった。
「やっぱりまこじゃない。元気してた?」
長かった黒いまっすぐの髪は今はパーマがかかってる。
ホントは水月と同じ、色素の薄い栗色なのに歌南は黒がいいと言って黒染めしてたっけ。
スレンダーなのに、胸だけはたっぷりとあって胸元が大きく開いたTシャツからその谷間が覗いている。
赤い唇と爪、香りまでも5年前と同じだ。
決して周りの流行に流されない、自分だけの道を行く歌南の生き方をあの当時は好きだった。
俺よりも3つ年上だから、今は確か28な筈。
でもちっとも老けたという印象はない。
ただ一つ違うのは―――左腕に薔薇のタトゥーが彫ってあるってだけ。
「ああ、何とかね。そっちは?」
「変わらず元気よ」
歌南は赤い唇の口角をちょっと上げて微笑んだ。
昔とちっとも変わらない微笑み。
勝気で挑発してるようで、でもそこが色っぽい。
俺の大好きだった微笑み。
歌南は俺の肩辺りに顔を寄せると、くんくんと鼻をひくつかせた。
「あたしがあげたEGOISTEまだ使っててくれてるみたいね」―――



