逃げ出したかった。 でも足が床に張り付いて動くことができない。 みっともねぇな。俺ってこんなんだっけ? 「まこってば、あたしよ。あ・た・し。忘れちゃった?」 女が靴を脱いでこちらに向かってきた。 まこ……昔と変わらない呼び方で俺を呼ぶ。 何事もなかったかのように。 俺はゆっくりと振り返った。 忘れるはずがない。 5年前、俺を置き去りにしていったこの酷い女のことを―――