俺は興味深そうに頬杖をつくと、初めて女に喋りかけた。


「ね、名前なんて言ったっけ?」


女は目をぱちくりさせると、ふっと表情を緩めた。


「この人、ひとの話聞いてなさそーって思ったけど、ホントに聞いてなかったんだ。


ホント…失礼なひと」



何故だかムッと……こなかった。


この女の通り、悪いのは俺だ。


それに、この女も別に本気で怒ってるわけではなさそうだ。にっこりと柔らかい笑みを浮かべてる。


「興味を持った女にしか、名前を聞かないし、喋りかけないの」


「へぇ。随分自意識過剰ね。でも…それじゃあたしは興味を持たれたってわけ?」


「そ。気になったから」


ふふっと女は小さく笑った。


きれいな笑い方をする女だと思った。


歌南のように華やかさはないが、素朴で純真な心温まる笑顔だ。





「知りたきゃ自分で調べて。ちょっとあたしお手洗い」



女はバッグを持って立ち上がった。


「鞄持ってトイレ?」


俺がちょっと斜めを向いて見上げる。


この女そのままばっくれる気だな。



「このままあたしがいなくても場は盛り下がらないでしょ。大丈夫よ。じゃぁね、センパイ」