けど、千夏はさっと顔をあげると眉を吊り上げてキっと俺を睨んだ。
「そんなことじゃない!誠人は何も分かってないよ!!」
大声で怒鳴ると、千夏はさっと身を翻した。
千夏の怒った声を初めて聞いた。
「待てって!」
どうすればいいのか分からず、俺は夢中で千夏の腕を掴んで引き止めた。
むきだしの腕は熱を持ったように熱かった。
まるで千夏の怒りそのものの温度のように思えた。
「離してよ!」
腕を振り上げて顔をあげた千夏の目に涙が溜まっていた。
怒った表情を見るのも初めてだったけど、泣いたところも初めて見た。
俺は
自分が何かとてつもなくいけないことをしているようで、いたたまれなかった。
どうしていいか分からず、俺はすっと千夏の腕から手を離す。
それを合図に千夏は回れ右をして、走り去っていった。



