「歌南はどう?落ち着いたか?」


「うん、だいぶ落ち着いたよ。歌南さん、アメリカに帰るって。旦那さんと買った家で子供と二人で住むって言ってた」


「そっか」


波の音を聞きながら、俺と鬼頭はゆっくりと砂浜を歩いた。


後ろを振り返ると、二人の歩いてきた足跡がくっきりと残っている。


「ねぇずっと疑問に思ってたんだけど、歌南さんなんであたしにいい産婦人科ないか、って聞いてきたんだろうね?


普通に生きてれば16歳のガキが、産婦人科に縁があるとは考えないだろうし」


「それもそうだ。言っとくが、俺はお前と病院行ったってことあいつには言ってねぇぞ。たぶん水月も」


「そんなん分かりきってるよ」


鬼頭は呆れたように、肩を竦めた。


こいつの…この悟りきった顔付きはやっぱムカつく。


俺の前を歩く鬼頭は足を止めると、海の方を眺めた。


すぐ傍まで波が来ていて、足元に水の跡を残している。





「歌南さんはさ―――




先生に止めて欲しかったんだよ。




あたしが先生のところに行くって分かってたから、だからその話を聞いて先生が止めに来るって



思ってたんじゃないかな?」