千夏の運転する車はもう1時間も平坦な道を走っている。


だんだんと都会から離れて、明らかに田舎と分かる民家がぽつりぽつりと建っているだけだ。


本当にこの道だっただろうか。はっきり言って俺の中の記憶は曖昧だ。


それでも青い標識に「海岸通り」の文字を発見すると幾分かほっとできた。


「千夏、疲れただろ?俺が運転代わる」


信号待ちをしている間に俺は彼女の真剣な横顔を見た。


「僕が代わるよ。まこはまだ病人だし」


水月が身を乗り出す。


「いいえ、大丈夫よ。それよりこの先もっと明りがなくなると思うから、標識とか覚えのある建物とかあったら教えてね」


「あ、ああ…」俺は頷くしかなかった。


車はまた走り出す。夜の闇にヘッドライトを浮かべて、淡々と……





この先の闇が、俺たちの未来でないことを俺は小さく祈った。





民家が途切れ、またコンビニやガソリンスタンドが立ち並んできた頃、道は幾分か狭まっていた。


細い横道が民家と民家の間に何本も細い道がにょっきりと出ている。


「まこ!海だ」


後部座席の水月が細い道の先を指差した。指の先を見て、俺は目を開いた。


長々と続く、灰色の防波堤。ちょっと身を乗り出すと、その先に見えるのは夜の暗い海だった。


ここに来てようやく記憶の断片が甦る。


この先に


灯台がある。





この先が







恋人岬だ。