―――俺と歌南は確かに男女の仲になった事実がある。……でも、男女の仲には戻れない。俺たちはあまりにも似すぎていて、


それ故に分かり合うことはできなかった。最後の最後まで。


これから先も分かり合いたいと思わない。



通ってきた過去は決して消えない。だから俺は受け止めることにした。


いいことも悪いことも。



すべて。





だが千夏は違う。


俺は歌南に対するような感情を千夏には抱けない。


俺は千夏を分かりたいと思うし、千夏にも俺のことをもっと知ってほしい。




千夏に…いや、誰かに対して「愛してる」なんて伝えたのは初めてのことだった。


心の中で思っていても、それを口に出せるほど俺はフェミニストじゃないし、言ったところでそれは軽いものにしか捉えられない気がした。


特に俺みたいな見てくれじゃ余計だ。


そんな妙なプライドが邪魔して、このたった一言を口に出来なかった。





どうしてもっと早くに言わなかったのだろう。


どうして彼女に伝えなかったのだろう。




伝えるにはあまりにも簡単で、こんなにも気持ちは溢れていた。



俺は千夏がただ大切で―――彼女の幸せをとことんまで願っている。


たとえ未来で彼女の隣を歩く男が俺じゃなくても、俺は彼女が幸せなら素直に祝福できる気がするんだ。




だけど俺はまだ千夏との別れを受け入れる程、心の整理ができていない。


願わくば、彼女の隣を歩き続けるのが俺であってほしい。





そう祈りを託して、俺は千夏を真正面からじっと見つめた。