俺は千夏を見て、息を呑んだ。


今日は夜勤の日だったのか―――


「どこへ、行くつもり?」


暗闇の中で、千夏の声が少しだけ響く。抑揚を欠いた、震えるような声。


「どこって…」


俺は言葉を濁した。見つかってしまったから、病室に戻されるな。理由を知ったら尚更だ。


だけど、千夏はそんなこと関係ないと思うかな…




でも!


止まってるわけには行かない。


一刻も早く歌南を止めないと!


「悪いけど、そこを通してくれ。先を急ぐんだ」


千夏は小さくため息を吐くと、


「元カノのところ?」と聞いてきた。


何で知ってるのか聞きたかったが、その答えを千夏は先回りして答えてくれた。


「さっき雅ちゃんがあなたの病室に入っていくのを見たの。悪いと思ったけど、話を聞いちゃったわ」


「……なら!」




「まだ」






千夏は俺の言葉に被せてきた。


いつかも聞いた、千夏のこんな強い口調を。






「まだ彼女のことが好き?」