鬼頭もだ。
歌南がアメリカに帰って行けば、鬼頭も水月の元に帰ってていくに違いない。
離れていくのが少し……寂しい……
千夏と別れたばかりだからかな。
俺は少しナーバスになってるみたいだ…
本来ならあの悪魔が居なくなって清々するところだけど。
「先生の髪ってさ、柔らかくてきれいだよね」
ふいに誰かの体温が額に触れた。
ふわりと甘くて、どこかみずみずしい香りが漂ってくる。
ほんの指先がかすれる程度。だけど、俺はその体温をはっきりと感じることができた。
鬼頭か、楠か―――どちらかの指が俺の前髪を梳く。
く…あいつらが纏っている香りの本質も似てるからどっちか分からん。
でも…
こんなことするのは……
楠に決まってる。
鬼頭は俺に不用意に近づいたりしない。例え俺が眠っていたとしても……だ。
髪を撫で梳いていた手がふっと止まると、おもむろに俺の頬へ滑り降りてきた。
指先でくすぐるように頬を撫でる。
体温が……柔らかな感触が―――心地いい。
どっちだ―――?俺の頬を撫でるのは………
確かめるほどでもないな。
俺はその体温がどちらのものか、何故か分かった。
「ずっと一緒に居られたらいいのに……」
俺の耳元に顔を近づけ、頬を撫で上げるその声
そしてあの芳しいまでの香りは―――
鬼頭のものだった。



