これを親友の水月に対して裏切りだと言うのだろうか。


たかがキスだ。


それにほんのちょっとぶつかっただけの事故に過ぎない。




俺はそう思ってるけど鬼頭は?




水月を裏切ったと思っているかもしれない。








鬼頭は水月の寝ているリビングを素通りして、楠の眠る寝室へと入っていった。


俺は二人の寝ているところに入っていくわけも行かず、ソファに足を投げ出すとごろりと横になる。


ソファの下の床の上で、水月が心地よさそうに寝息を立てていた。


体の上には誰が被せたのか、ブランケットがかかっている。


体を丸めてブランケットを口元まで被り熟睡する姿は、酷く無防備だった。


鬼頭も無防備だけど、あいつはちゃんと危険なラインとそうでない線引きをきっちりしている。


そう



だからさっきのキスは単なる事故。


それ以外にもそれ以上にでもない。





だけど



俺は水月に対して罪悪感を覚えている。



その時点で裏切りだと白状するものじゃないか。



たかがキスじゃないか。


こんなん合コンでも行きゃゲームでもできる。



なのに……


あいつと俺とを一緒にしてはいけない。


あいつの恋愛価値と、俺のとは全然違うのだから……



俺の中でぐるぐると抜け道のない考えが道に迷っている。





ふっと千夏の存在が頭を過ぎった。


『誠人は全然分かってないよ』


千夏の言葉が頭の中を反復する。






皮肉だな。





俺はこうなってやっと初めてあいつの気持ちが分かった―――






俺は我知らず―――千夏を………







裏切っていたんだ。