オーダーを済ませ、ビールがすぐに運ばれてきた。
ジョッキを鳴らし、軽く乾杯すると俺は切り出した。
「この間……歩道橋の…覚えてる?」
千夏は両手で持ったジョッキに口をつけてコクンと小さく頷いた。
伏せた目がちょっと曇っていた。
「あのとき……」
「あのとき、わたしあの近くにある病院に研修に行く最中だったの。新しい器材が導入されるから、同僚のみんなで…」
千夏がまたも言葉を被せるよう早口に言った。
「研修……」そうだったのか。
あの時後ろにいた男女は千夏の同僚だったわけか。
俺はあのとき何であんな路地裏に車を停めていたのかを説明した。
長いいきさつになったが、鬼頭が俺のマンションに住み着いていることと、あいつが妊娠したかもってことは伏せておいた。
一通り話し終え、納得したのか千夏は小さく頷いただけだった。
俺の説明を千夏は疑ってはいないようだった。
だけどひどく哀しそうだ。
伏せた目を上げることはない。
俺の方を見ようとしない。
どうすればいい?
どうすれば千夏の心が溶ける?
そんなことを苛々と、そして焦りながら考え、俺はタバコを取り出した。



