鬼頭はちょっと不服そうに俺を睨むと、唇をきゅっと結んだ。
「……先生は明良兄の味方なの?やっぱ男同士だから?」
俺はちょっと呆れてため息を吐いた。
鬼頭にしちゃ随分子供っぽいことを言う。
味方とか、敵とか……
そういう問題じゃない。
「ガキかよ。俺ぁ誰の味方でもねぇよ。ただ、男の気持ちを言っただけ」
ブー
後方の車からクラクションの音があがった。
前を見ると、ゆっくりと車が進んでいる。
いつの間にか信号が青に変わったようだ。
俺は車を進めようと、ブレーキペダルから足をどかせようとしたときだった。
「ガキで悪かったね。でも不誠実なのは明良兄じゃん。寂しいから、なんて通じないよ。
浮気して乃亜を傷つけたのは確かなんだよ。
寂しかったから、しょうがない。許してやれって?
冗談じゃない!」
鬼頭にしちゃ珍しく顔に怒りを浮かべて声を荒げた。
アクセルを踏もうとしていた俺は、一瞬躊躇した。
「あたしは。
あたしはそんなこと理解できない。
でも理解することが大人だったら、あたしは大人になんかなりたくない」
最後の言葉は静かだったが、怒りは決して消えることはない。
ふいと顔を逸らすと、鬼頭は持ってきたバッグを引っつかみ、ドアを開けた。
「おいっ!ちょっと!!」
バタン!!
俺の呼びかけも虚しく、勢いよくドアが閉められる。
鬼頭は工事の看板と道路の合間を縫い、さっと猫のように走り去っていった。
ブッブー
もう一度急かしたクラクションが鳴り、
「くそ!」と舌打ちをして俺は今度こそアクセルを踏んだ。



