俺はカウンターのショーケースでできるだけ長くケーキを迷い、結局いちごのショートケーキ、カボチャタルト、ガトーショコラを選んだ。
水月なら本気で悩むだろうが、正直何にするかで迷っていたいたわけじゃない。
できるだけ時間をやって、楠が俺のいない席で存分に泣けるようにしたかった。
後ろに客がいないのも幸いだった。
ケーキを受け取ると、金を払い俺は席に戻った。
楠の目は真っ赤に充血していたが、もう涙の跡は見えなかった。
トレーをテーブルに置くと、二人は嬉しそうにそれを覗き込んだ。
「好きなやつ選べよ」
俺が言うと楠はショートケーキを、鬼頭はタルトを選んだ。
残った俺はガトーショコラ。
「おいし~♪先生、ありがとね☆」
楠はケーキを口に入れると顔をほころばせた。
もう表情は暗くなかった。
「出世払いにしといてやる」
俺がガトーショコラを口に入れて言うと、
「金とんの?」
と鬼頭がちょっと睨んできた。
もちろんそれは冗談だが。
「ケチくさい」
「彼女でもないのに、お前が図々しすぎるんだよ」
俺は鬼頭の額を軽くデコピンした。
その様子を楠がじっと見ていた。大きな目をぱちぱちさせると、
「雅と先生って仲いいよね」
と恐ろしいことを口にした。



