「ちょっと待て」


俺は鬼頭の腕を掴んで、こちらを振り向かせた。


鬼頭は鬱陶しそうに俺をちょっと見上げると、目で「何?」と聞いた。


「お前、ここに泊ってく気か?」


「そのつもりだけど」


言ってる意味が分かってるのかなぁ、鬼頭サン。


「あのなぁいくら何でもそれはないだろ。お前は帰れ」


「だって水月の家にはお姉さんがいるし、今更一人の実家に帰るなんて寂しいよ」


鬼頭はしおらしくしょんぼりとうなだれた。


歳相応の仕草だった。ちょっと可哀想にも思える。


「でもお前、男の家に泊るなんて流石に水月が許さねぇだろ」


「水月が一晩まこの様子を見ていてやってくれって言った」


鬼頭はまた無表情に答えた。


なんか……こいつには独特のテンポがあって、俺はそれについて行けない。





それにしても水月……


愛しの鬼頭を俺みたいな男の元に一晩置いてって、あいつこそ心配じゃねぇのか?


よっぽど鬼頭を信頼してるか。


俺を信用してるか。




水月も大概何を考えてるのかわかんねぇ。