「……軽薄……なんかじゃねぇよ。悪い。俺が言い過ぎた」


鬼頭にこんな台詞を吐かせるつもりはなかった。


こんな悲しいことを言わせるつもりはなかった。


自分の言った言葉に少し後悔を覚える。


最強にしたエアコンのおかげで車内が少し冷えてきた。


俺はエンジンを掛けると、車をゆっくりと発車させた。





「女ってのは、やっぱ好きな男の子供を身ごもるってことは幸せなことなの?」


ハンドルを操って、俺は聞いてみた。







「……幸せ……だよ。例え子供ができたことで水月が逃げようと、あたしは子供を一人で育てる。大好きな人の子供だもん。いっぱい愛情を注いで、世界一大切にするの」




隣に水月がいて三人だったらもっと幸せ。





鬼頭は遠い目をしてうっすらと微笑んだ。



俺は鬼頭に女の顔じゃなく、母親の顔を見た。





何でだろう……



俺、今泣きそうだ。


俺を捨てていった母親を思い出したから?


あの薄情で、傲慢な女を―――思い出したから……


封じ込めた筈の記憶が俺の中で鮮明に蘇った。


俺には忘れたいことがたくさんあるのに、忘れられない。


過去は常に俺の中に存在し続け、決して消え去ることはない。







「俺も……お前みたいな母親に育てられたかったよ…………」