「こうなったら、ぜってぇ勝ってやる。」
 荒井は、もうやけくそだった。
 携帯をしまい、なぜかずっと握りしめていた缶を地面に書かれた円の中心に置いた。
「荒井って言ったな?」
 清水が近づいた。
「あぁ、なんだ?」
「最初の鬼、君になったようだ。」
 清水の携帯のメールの文を荒井は読んだ。
『缶蹴リ 一回戦 オニ 高木ミナ リタイア 変更 荒井シンジ』
 荒井は、そのメールを読み終え、ため息をついた。
「悪いが、手加減はなしだ。俺は、勝つ。百秒数える、それまでに隠れろ。」
 荒井は、缶の前にみんなに背をむけて座った。
 清水は、携帯を閉じて、霧の中へ歩いて行った。
 アヤカの横を通りすぎるとき、清水は小さくアヤカに話しかけた。
「…目、閉じて。」
 アヤカには聞こえたが、意味がわからなかった。清水の背中をただ見ていた。
 アヤカの隣にいたシホには、清水が何を言ったのか聞こえなかった。
「お前らも、早く行けよ。」
 荒井は少し寂しそうにみえた。
 アヤカは荒井を見ながら、立ち上がり、清水が消えたほうへ歩き出した。
「とっ、戸田さん…」
 シホが呼ぶ、でも振り向かなかった。
 シホは、どうしたらいいのか解らなかった。
 一人でいるのが、すごく恐かった。
「…お前もだよ。」
 荒井は、シホがいることがうざかった。
「早く行けっつってんだろぉ!」
 荒井は、怒りをぶつけた。
「い、いやです。」
「はっ?」
 シホはうつむき、震えている。
「今ここで、お前の名前を叫んで、缶踏んだっていいんだぞ。」
 荒井はシホのあまりのおびえに、怒りを抑えながら言った。
 シホは、泣きながら霧の中へ入って行った。