清水の両親は仲も良く、近所でも有名なほどだった。
 そう、父親がリストラされるまでは…
 父は、再就職もせず、ギャンブルと酒に溺れ、母親に暴力を振るうようになった。
 清水は、歳の離れた妹を助けるのに精一杯だった。
 父が母を殴る姿を妹に見せ、泣かれでもしたら、標的は妹に移る。
 それだけはなんとしても守りたかった。
 母が殴られるのをずっと見ていることしか出来なかった。
 やめろ。やめろ! と何度も心の中で叫んだ。
 その日もいつもと変わらなかった。
 清水は、母を守りたかっただけ…

 今日だって、ただ、それだけだったのに。

「父さん、もうやめてよ!」
 勇気を出し、突き飛ばした父の身体は、アルコールも入っていた為、よろけて倒れた。
「母さん、大丈夫?」
 母は泣き崩れ、僕に抱きついた。
 静かだった。
 母の泣き声だけが、部屋に響いた。
「……父さん?」
 ぴくりとも動かない父に気付いたのは、母が落ち着いた頃だった。
「寝てるのよ…」
 母はそう言って、台所のほうへ歩いて行った。
「母さん、ち、血が出てるよ。」
 清水は震えていた。倒したとき、父は家具に頭を打ち付けていた。
「ナオヤ、逃げて!」
「えっ?」
「いい、アナタは家に帰ってなかったことにするの。いい?わかったら早く行きなさい。」
「でも…」
「いいから早く行きなさい!」
 清水は涙を拭いながら、家を飛び出した。
 妹は今母の実家に預けている。
 妹のところへ行こう。
 それなら後から母さんにも会える。
 清水の頭の中は、父親を殺してしまった罪悪感と、これからは家族三人幸せに暮らせると感情が入り混ざっていた。
 だから気付かなかったんだ。
 清水に近づく、居眠り運転の車に…