『缶蹴リ 一回戦 終了 プレイヤー 沖野シホ 負ケ』
 シホの体が消えていく。
 シホは、やり残した事を、アヤカに言った。
「戸田さん、ママに伝えて。」
 シホはアヤカに携帯を渡した。
 消えて行ったシホの最後は、笑顔だった。
 シホの携帯の画面には、メールで、
 …産んでくれてありがとう。と打ってあった。

「なんで、なんでこんなことするの!お願い、もうやめて…」
 アヤカは、電話の男に届くよう、叫んだ。
「さぁ〜、さっさと次、始めようぜ!」
 荒井には、心がないのだろうか…
 アヤカは、呆れて立ち上がった。アヤカの携帯が鳴る。
「荒井シンジ、聞コエルカ?オ前ハ、ルールヲ犯シタ。」
「ルール違反?なっなんでだよ!何もしてねぇじゃねぇ〜かよ!」
「携帯ニメールヲ送信シタハズダガ。」
「だから!俺のは、読めねぇって言っただろ!」
 荒井は、携帯を取り出しながら、受信メールを確認した。
 荒井の顔がこわばった。
『始マル前ニ言ッタハズダ。今ノオ前ニハ読メナイ。ト』
「…読めるようになったってことか?」
 荒井のメールには、こう書かれていた。
『ルール 追加 缶ヲ誤ッテ倒シテシマウト、缶ヲ蹴ラレタコトト同ジニナル』
「ちょっと待てよ!俺が倒したのは、あの女が負けた後だろ?」
『ソノズット前ニ、メールハ送信済ダ。オ前ガスベテヲ知ッタ後ニナ。』
 荒井に彼女の顔が浮かんだ。
 あのとき、頭病みが収まって、携帯を取り出した。
 でも、待ち受けの彼女と撮った写真を見ただけで、届いていた新着メールまでは、確認していなかった。
 あのとき読んでいたら、読めてたのか?すべてを知った後…
どういうことだ?頭病みが来て、目を閉じたら、自分が写った…死ぬ自分が…そして、収まったら…すべてを知ったら…

「俺が、…負けた。」

『残念ダ。オ前ガコノゲームカラ抜ケルノハ。少シ面白ミニカケルナ。』
 メールが届いた。内容は、すでに解っていた。
『缶蹴リ プレイヤー 荒井シンジ ルール違反 失格』
 荒井のゲームの最後は、呆気なかった。
 荒井がやり残したことは、あの卑劣な荒井からは想像できない、ただ一人の女を、彼女を幸せにすることだけだった。