「荒井シンジだな?」
 ゲームコーナーで暇を潰す荒井に、スーツ姿の男性が二人、声をかけた。
「あぁ?」
「警察の者だが、署まで……」
 荒井は、静かに立ち上がり、つかみかかる手を振り切り逃げ出した。
「荒井!!」
 荒井の逃げ足は速かった。すぐに警察との距離は離れて行った。

 ひとつ大きな息をはき、呼吸を整えた荒井は、待ち合わせをしていたことを思い出し、急いでいつもの場所へ向かった。
 道路をはさんで向こう側に、小柄で色白の肩までの黒髪の女の子が立っていた。誰もが、可愛いと思ってしまうような、芸能プロダクションなら必ずスカウトするであろうくらいの整った子だった。
「シンジ君、遅い。」
「わりぃ。」
「早く行こっ!」
 荒井の一つ歳下の彼女だった。
 初めて人を好きになった。
 彼女の笑顔に救われていた。
 彼女といる時間が楽しかった。

 警察に追われるようになったのは、高校に入学してから。
 荒井は、不良の道へと進んでいった。
 それは自分を守るため、万引き・かつあげ・奪った金はすぐにゲームコーナーの格闘ゲームに消えていった。

 自分を守るため…

 荒井はいつしか不良グループのリーダー的存在になっていた。
 でも今、荒井の腕を掴んで笑顔を絶やさない彼女は、荒井の本当の姿を知らない。
 嘘をついている訳ではない。
 彼女といると、忘れるんだ。
 法律にひっかかるような悪いことをした自分を、忘れられる。
 荒井は、今までの生き方を変え、彼女を守ろうと、悪さをしなくなった。
 
 そんなある日、事件は起きた。