「よく、眠れましたか?」

目を覚ますと、目の前には、五百万の札束を手に持った男が、笑顔で私を見つめていた。

「おはようございます」

「おめでとうございます。今回は、あなたの作品が選ばれました」

男は、そう言うと、私に、現金五百万円を差し出し、机の上に置いた。

「あ、ありがとうございます」

私は、周りの目を気にし、必死に冷静を装った。そして、震えた手で札束を握り締めると、すぐに自分の鞄へ突っ込んだ。

「やはり、あなたをここに連れてきたのは、正解でした」

「と、いうのは・・」

「今回の作品で、審査員が目を引いたのは、殺害のシーンです。あれ程のリアリティー、今までのドラマ『沈黙』に何か足りないと思っていたもの・・「これだ!」と確信致しました」

私の考えは、間違いではなかった。真実、それこそが私の作品だった。
さらに男は、私の耳元で小さな声で、続きを話した。

「実は、あなたがこの脚本を書いた翌日、あるニュースが流れまして・・」

私の表情が、一瞬にして強張った。それは、自分でも分かった。

「・・、ニュースですか?」

「はい。大手IT企業の社長が、何者かに心臓を何度も・・」

私は、自分の心臓までもが、鋭利な刃物で切りつかれたような、恐怖感に怯えた。今すぐ、ここを抜け出したかったが、「冷静に・・冷静に・・」私は、何も知らないと自分の心に言い聞かせた。

「そうですか・・」

「あなたは、まるで予言者のようだ。世間が、ニュースで騒いでいる今、リアルタイムでドラマを放送すれば、視聴率は確実」

男は、私の肩を二回叩くと、部屋を出て行った。
あの事件は、私がやったのだ。その事に、すでに男は気付いているのだろうか?あの笑顔の意味は何なのか・・

私は、次のセレクション審査に向けて、新たな脚本を書き始めた。