薄暗い地下への階段を下って行くと、パスコードロックの掛かった鉄の扉の前で、男は足を止めた。

「最後に、質問しても宜しいですか?」

鉄の扉を見つめたまま、パスコードに手をかけ、振り向かずに男は言った。

「はい」

「あなたは、人を殺したことがありますか?」

寒気と共に、私の身体は震えた。そんな質問をされるとは、あまりにも突然で、私はすぐに答える事が出来ずに息を飲んだ。

「いいえ」

一瞬、男の肩がピクッっと動き、小さな声で答えた。

「そうですか」

男は、少しガッカリした様子で、肩の力が抜けたのが、私も見て分かる程だった。
パスコードを入力する音が、地下に響いた。