河川敷で、女性の変死体が発見された。

 大勢の警察関係者や報道陣等が押し掛け、現場は騒然としている。

 頭上には絵の具で丁寧に塗り潰したような青空、桃に色づき始めた堤防上の桜並木、透きとおるほどに澄んだ空気は心地よいはずだった。

 だが、ここに集まった者たちは、そんな春の訪れを味わうことを忘れてしまっている。


 初老の刑事は、ブルーシートで覆われた一画で、その無残にも若くして将来を奪われた女性に向かって、両手を合わせ、祈るように瞼を伏せる。

 不意に、ブルーシートをめくって、若い男が入って来た。
 男はおもむろにジーンズの後ポケットから携帯電話を取り出すと、その遺体に向かってそれをかざす。


 カシャ――


 無機質な機械音に反応し、若い刑事が荒々しくその男に掴みかかった。
「お前、何してんだ? ふざけんな」

 すぐさま初老の刑事が若い刑事を制し、
「江崎、よせ。彼は警視庁から来た捜査官だ」
 穏やかに、言い聞かせるように言った。