クロネコ彼氏



さっきの……だよね。


どうして気付かなかったんだろう。

あの時、皮膚が引っ掛かれる音がしたのに。



わたしを、庇ったせいで。





「……気にしすぎ」


「でも…っ」


「俺は伊織を守れたから後悔はしてないんだけど?」



――“伊織”


ずるい。

こんな時に名前を呼んで。



そんな、優しく笑ったりなんかして。





「黒川くん、ずるい」


「は?」


「そんな風に言われたら何も言えない……」



きっと、黒川くんの計算のうちなんだろうけど。



……どうしよう。


こんなにドキドキするなんて。

こんなに胸が痛いなんて。