「い、いや。何でも、ない」
「……ふーん」
私の返事に、黒川くんは変な顔をしたけど。
本当に何でもないんだ。何でもない、はずなんだもん。
「まあ、いいや。一時限目サボろう」
「え?」
「え?って。“サボろう”って言ったの」
黒川くんのいきなりの言葉に目をぱちぱちと瞬きする。
だって、珍しい。
というか初めてだと思う。“サボろう”なんて。
なんでいきなり?
そう考えていたのが顔に出ていたらしい。黒川くんは真顔で言った。
「伊織て二人でいたいから。駄目?」
……。
一瞬、「そっかあ」なんて間抜けな返事をしそうになってしまった。
でも、そのくらいあっさりした言葉だったんだ。

