「美奈?どうしたの暗い顔をして。裕也さんと何かあったの?」 

美奈の母、百合枝が父の世話をしに来ている美奈の様子が気になり聞いた。 

「あのね、お母さん…裕也が九州にある本社の方に単身赴任しないといけないかもしれないの。」 

「あらぁ、どのくらい九州に?」 

「短くても4、5年は…。」
「まぁ……。美奈は一緒に行かないの?私たちの事を気に掛けてくれてるのは嬉しいけど夫婦は一緒に居るべきよ?」

「うん、分かってるけど、お父さんやお母さんにもしもの事があったらすぐに来れないし………。」

百合枝は優しくこう言った。 
「あのね美奈、お父さんにはお母さんが居るし、お母さんにはお父さんが居るのよ?まぁ、確かにお父さんは動けないけど、ちゃんとお母さんの事を見てくれてるわ。いつも傍に居て、寄り添い合って生きているの。それが夫婦なのよ?」

美奈は百合枝の父に対する強い愛を改めて痛感した。
(私達夫婦にはこんな強い絆があるだろうか…?)

美奈は両親がとても羨ましく感じた。 
確かに美奈と裕也も仲は良いが、ここまで強い気持ちで夫婦になったのだろうかと美奈は少し不安になったのだ。 

「お母さん、私裕也が九州に行きたいなら行かせたい。でも、私には家を守る義務があるわ。一緒に行きたいけど、ここに残ってお母さんやお父さんの助けになりたいの。」

「……美奈、本当にそれで良いの?裕也さんと4、5年も離れて大丈夫なの?」
「えぇ、大丈夫。会いたくなったらいつでも会いに行けるし、遠距離恋愛みたいで少し楽しいかも。今日裕也が帰って来たら話してみる。」

「……そう、あなたがそうしたいならそうなさい。あなた達夫婦の問題なんだからね。」

「うん、分かってる。じゃあ私そろそろ帰って夕飯の支度しなきや。また様子見に来るからね。お母さん、お父さん。」

美奈が帰った後百合枝は心配だった。 

「……ねぇお父さん、美奈と裕也さん離れても大丈夫かしら?私心配で……。」
父、清司は言語障害がありうまく話せないが、目を見て百合枝にはこう言っている様に思えた。

(美奈は大人なんだから心配するな。)
と。 

「えぇ、見守りましょう。」