「今日、シートバッティング、みんなに付き合ってもらってたらさ」

「ちょっと待って。シートバッティングって?」

疑問を投げかかる翼に対し、答えを教えたのは陽ではなく今日香だった。

「投手とか野手を、試合するみたいに守備につかせてする練習方法の事よ。翼、あんた本当に陽くんのお姉ちゃんなの?」

「だって野球の用語って難しいじゃない。ってゆーか、何で今日香はそんな事知ってるの?野球好きだったっけ?」

「私、流行には乗るタイプなの。去年、陽くんの活躍のおかげで、日本が高校野球ブームだったでしょ。それで私、野球の事一生懸命勉強したのよ」

「へぇ、知らなかった」

「いいなー。俺、今日香さんみたいな人がお姉ちゃんなら良かった」

「あらっ、嬉しい事言ってくれるのね」

「ちょっと今日香!ヒナちゃん!……それで?」

自らが逸らした話の話題を、自分で戻す。
陽は肩をすくめて再び話し始めた。

「まあ、俺もだけどバッターも本気だからね。俺にスキがあれば向こうはどんどん攻めてくる」

バッター本人も空振ったと自覚したようだった。しかしボールは変な音を立ててバットに当たり、ピッチャーライナーとなって陽に向かってきた。避けようとして避けきれなかった。
気がつくと陽はマウンドの上でうずくまっていて、チームメイトに取り囲まれていた。監督の指示で部長の車に乗り、急いで病院へと連行された。

診断によれば見た目よりはそれほど酷くない怪我で、2日もあれば治るという。

「骨に異常はないし、まぁ、ツメはちょっとはがれたけど」

「ツ、ツメがはがれたの?」