たからもの


電車にはギリギリ間に合った。
今日はどこの高校も始業式で、午前中で終わる。電車内には色々な学校の制服を着た生徒が、たくさん乗っていた。

翼とは離れて別の車両に移動しようとする陽を、無理やり隣に座らせる。

「ちょっと。それ、どうしたの?朝はなんともなかったじゃない」

「当たり前だろ。学校でやったんだから」

「何したの」

「言わなきゃダメ?」

「……」

「分かったよ」

陽は大きくため息をついた。肩が1度だけ上下に揺れる。
似てない似てないと、周りに散々言われても、彼女は間違いなく自分の姉だ。どこかしらは似ているし、だからこそ理解もしている。

例えば今みたいに、1度疑問に思ったら食い下がらないところ。
自分もそんなだから、監督や先輩にはたくさん怒られてきた。だけど、今の自分がここにいるのはその性格のおかげだ。

姉を見ていると、時々自分を見ているような気分になる。だからこそ、これ以上の黙秘は無駄だと思った。

「姉ちゃんが心配するような、喧嘩とかの怪我じゃねぇよ。これでも俺、エースなんだからさ。学校背負っちゃってるわけ。分かる?」

「分かってるよ」

高校に限った事じゃない。リトルの時も、シニアの時も、ずっとエースだった。そして身体は大きい方ではない。
だからいつも思うのだ。

この小さい身体に、どれだけのものを背負っているのだろうと。