病院に着くと、受付の若いナースの驚きなんて気にせずにビチョビチョのまま
しまの病室を聞いた。


普通ならここで名乗ったりしなくてはいけないが、若いナースもびっくりしきっていてあっさりと

「楠木しまさんは……さ……301号室で…す。」

と言ってくれた。



ありがとうございます!

心で叫んだけど、ナースに届くはずもなくて。


ずっと変な目で
見送られた。


病室をガララッとあけると、しまは元気そうに手を振った。



「しま…!何ともないのっ?だいじょぶ!?」

あたしの目にはいつの間にか涙が浮かんでいた。

本当にしまが心配だったのだ、と我ながら関心してしまう。



こんな友達に移入したのは
初めてのこと。

美和とは友達だなんて呼べる仲じゃなかったし、心から好きになれる友達なんて
今までいたことなかったかもしれない。


強いていうなれば、
もう全く交流のない幼なじみの男の子の

山瀬実 ぐらいかも。


山瀬実をみっくんと呼んでいつも遊んでいた。


もちろん、幼稚園の頃の話だけれど。


「ごめん…ね。あげは……。こんな心配してくれてたのに…こんなこと……。」

見ると、手首に真っ白な包帯が
何重にも巻かれていた。


「しま…手首切ったの……?」


あたしだって、したことない。

いくらつらくても、自殺に逃げちゃいけないと思った。



時には自分には生きてる意味なんてなくて、ただただお母さんのストレスのはけ口として
生かされてる、そんな存在だと思えた。



けれど、今は違う。

しまがいたから、
しまが優しかったから、
しまに逢えたから、


今あたしは生きて、
ここにいる。



人に死なれるのが、どんなに過酷なことかが分かった。


思わず涙が溢れてしまったことに、しまは驚き、自身の指で拭ってくれた。